自家不和合性の研究 / Our research for self-incompatibility in plants
自家不和合性は「同じ個体の花粉を雌ずいが認識・拒絶する」という不思議な現象で、他殖を促進・自殖を抑制することで種の遺伝的多様性を維持するのに役立っていると考えられます。花粉と雌ずいでどのような遺伝子がどのように作用して自家不和合性を引き起こすかを、ナシ・リンゴなどのバラ科果樹、ペチュニアを材料に研究をすすめています。

ナシの人工交配の様子。

園芸植物の染色体研究 / Chromosome research in horticultural plants
DNA(遺伝子)の担体である染色体の観察から多くの情報が得られます。マイナーな生物種では染色体の数が分かっていないことがありますし、倍数体や異数体が見つかることもあります。染色体の大きさからおおよそのゲノムの大きさが予測可能で、染色体の数や形態(長さや動原体の位置など)による核型が明らかになります。種や個体の間で核型に違いが見られると、分類や多様性の把握に役立ちます。さらに、私たちの研究室では、DNAを可視化する蛍光 in situ hybridization(FISH)法や、ゲノムを可視化する genomic in situ hybridization(GISH)法が利用可能です。FISH解析により、ゲノムに含まれる反復配列の分布を明らかにしたり、転座や逆位などの染色体突然変異が検出できます。私たちは高解像度・高感度のFISH解析法の確立を目指しており、現在のところ、反復配列やBACクローンだけではなく、DNAの配列情報から10kbほどの標的配列を選んで検出することが可能になっております。また、ユニークな配列をプールして1つのFISHシグナルを形成させるオリゴプローブの開発と利用も積極的に進めております。通常の染色体よりも長いパキテン染色体やDNAファイバーをFISH解析に用いることで高解像度のFISH解析が達成され、染色体標本作製やFISH実験条件の検討から従来よりも短い配列を自由に検出することが可能になりました。私たちのFISH解析技術は、微小の染色体突然変異の検出やゲノム・アッセンブリの検証に利用されています。GISH解析は、種間雑種を用いた育種研究において、とても役立ちます。交雑後に得られた実生の雑種性をGISH解析で確認したり、遺伝子導入のために異種の染色体の間で組み換えが生じるかを明らかにするときにGISH法は便利です。GISH解析で染色体構成を調べることで、選抜個体の中からより適した個体を選んだりします。FISH解析やGISH解析、さらには免疫染色などを組み合わせて、動原体の構造と機能や植物人工染色体、クロモソームテリトリーといった核内配置に関する研究にも興味を持って取り組んでおります。
これまでに多くの植物種の染色体を観察してきました。果樹(リンゴ、ビワ)、蔬菜(レタス、キュウリ、メロン、イチゴ、ダイコン、ブロッコリー、コマツナ、ルッコラ、エンサイ)、作物(イネ、ムギ類、トウモロコシ、ジャガイモ、ソバ、アズキ、テフやタカサゴムラサキアカザなどの雑穀)、花き(トレニア、ブバルディア、ラン科植物、シクラメン)、その他(ジャトロファ、トウヒ、チャボイナモリ、甘草、マオウ、ホソバオケラ、クサミズキ、クララ、緑藻)など。植物の染色体観察をご希望される方は、お気軽に菊池(skikuchi(at)faculty.chiba-u.jp)までご連絡下さい。

FISH解析とGISH解析
(左)複数の反復配列を可視化したマルチカラーFISH。(中央)パキテン染色体へのシングルコピーFISH解析。5つの配列を同時検出している。(右)GISH解析。1本の異種染色体を検出している。

共同研究:ゲノムプロジェクトへのFISH解析支援 / FISH analysis for plant genome project
ゲノム解読プロジェクトでは、シークエンサーにより決定した配列情報を染色体スケールまでつなぎ合わせることが目標の1つとなります。しかし、ゲノムには反復配列などの解読困難な領域が存在するため、ゲノム情報のほとんどはシークエンス・ギャップを含む形で公開されます。ロングリードのシークエンサーや新規アッセンブラ、Hi-Cなど、日進月歩で技術革新が進んでおりますが、現在、大規模に読まれたゲノムであってもシークエンス・ギャップは存在し、それが原因で誤ってつなぎ合わされるアセンブル・エラーのリスクが存在します。私達の研究室では、ゲノム・アセンブルの整合性を明らかにするために、FISH解析による検証実験をいくつかの植物で行いました。
ゲノム・アセンブルの整合性の検証に関して、FISH解析による支援を行います。お気軽に菊池(skikuchi(at)faculty.chiba-u.jp)までご連絡下さい。

FISH解析によるアセンブル・エラーの検出と修正

Hi-Cのみではscaffold1の向きの誤りを検出できない可能性があるが、FISH解析を組み合わせることで実際の配列の並びを染色体上で確認し、アッセンブル・エラーを検出・修正できる。
石井・長岐・菊池 細胞遺伝学の新潮流―より速く,より広く,より細かく,そして創出へ

『化学と生物』Vol.58 No.11 Page. 606 - 613 (published date : 2020年11月1日)

果樹を対象としたゲノム育種基盤の開発:

Development of an efficient breeding platform for fruit trees using genomics-based approaches

 

 カンキツ、リンゴ、ナシなどの果樹は一般的に種子が発芽してから開花して結実するまでの期間が長く、新しい品種を作るのに長い年月を要します。また、個体サイズが大きいために多数の個体を選抜対象にできず、新品種の獲得が容易ではありません。交配で得られる個体から新しい品種が生まれる確率は、数千個体に一個体程度です。

 私たちは、DNAの情報をもとに、芽が出た段階で将来できる果実の性質(果皮色や果実重など)を予測して選抜する手法(ゲノミック選抜:Genomic selection(GS))を開発しています。それぞれの果樹の育種プログラムにGSの枠組みを導入するための支援も行っています。また、統計遺伝学(情報解析技術)と分子遺伝学(生物実験技術)の両アプローチによる果実の性質の遺伝システムの解明も目指しています。遺伝システムを明らかにすることができれば、果実の性質を遺伝的に制御することができるようになります。DNAの情報を活用した育種法は果樹の新品種獲得の効率化・加速化に役立つことが期待されます。

 これまでの研究についてはresearchmap(リンク:https://researchmap.jp/mfminami)をご参照ください。果樹GS研究の説明動画はこちら(リンク:https://www.youtube.com/watch?v=YPw9enQz228)からご覧いただけます。

 私たちの研究にご興味をお持ちの方はお気楽に南川(minamikawa<アット>chiba-u.jp)までご連絡ください。<アット>を@に変えてください。